日本の成人の約8割が経験する「頭痛」──なぜ放置されがちなのか
頭痛は、それ自体が病気というより、体からのサインです。日本では成人の約8.4%が片頭痛を持つとされ、推計で840万人以上が該当します。女性は男性の約3倍多く、特に20代から40代の働き盛りに集中しているのが特徴です。
問題は、多くの人が「頭痛くらい」と我慢してしまうことです。実際、片頭痛の診断基準を満たす人のうち、医療機関を受診したことがない人は4割以上という調査結果もあります。日本の診療現場では、初診の多くがかかりつけ医や内科で行われますが、そこで「様子を見ましょう」と言われて終わってしまうケースが少なくありません。
また、日本の職場文化も頭痛を悪化させる要因です。有給休暇を取りづらい環境や、慢性的な残業、パソコンやスマートフォンを使う時間の長さが、眼精疲労を介した緊張型頭痛を増やしています。
頭痛を「3つのタイプ」に分けてみる
頭痛の対処法を考える前に、自分の頭痛がどのタイプに当てはまるかを知ることが大切です。
| タイプ | 特徴 | 日本での頻度 | 代表的な対処法 | 医療機関受診の目安 |
|---|
| 緊張型頭痛 | 頭全体が締め付けられるような鈍い痛み。肩こりや眼精疲労が引き金になりやすい | 最も多い | 姿勢改善、ストレッチ、目の休憩 | 週3回以上続く場合 |
| 片頭痛 | ズキズキと脈打つ痛み。吐き気、光・音・においに敏感になる。前兆(視覚異常)を伴うこともある | 成人の約8.4% | 暗い部屋で安静、トリプタン製剤やCGRP関連薬 | 月に2回以上、市販薬が効かない場合 |
| 群発頭痛 | 目の奥がえぐられるような激しい痛みが、数週間から数ヶ月にわたって毎日決まった時間に起こる | まれ(男性に多い) | 専門医による治療が必要 | 痛みの強さが尋常でない場合、すぐに |
この表で「自分は片頭痛かもしれない」と思った方は、早めに脳神経内科や頭痛外来の受診を検討してください。片頭痛は発作時の治療だけでなく、発作を予防する治療もあるため、我慢する必要はありません。
片頭痛の治療はここまで進んでいる──2025年に登場した新薬も選択肢に
片頭痛の治療は、ここ数年で大きく変わりました。従来は、痛みが出たときに鎮痛薬を飲む「急性期治療」が中心でした。それに加えて、最近は「予防治療」の重要性が高まっています。
発作時の治療
軽度から中等度の痛みには、市販のNSAIDsやアセトアミノフェンが使われます。ただし、片頭痛では胃の動きが悪くなり薬の吸収が遅れるため、吐き気が強い場合は飲み薬が効きにくいことがあります。その点、トリプタン製剤は片頭痛に特化した薬で、痛みの伝達を抑える働きがあります。処方薬なので、医師の診断が必要です。
予防治療の選択肢
月に数回以上発作がある場合は、発作を起こりにくくする予防薬が検討されます。従来の予防薬に加えて、CGRPという物質に着目した治療薬が登場しました。CGRPは片頭痛の発作時に血中で増加する物質で、痛みのシグナル伝達に関わると考えられています。
2025年には、経口のCGRP受容体拮抗薬「ナルティークOD錠75mg」が日本で承認されました。この薬は、発作時の急性期治療と発症抑制の両方に使えるのが特徴です。さらに、注射タイプのCGRP関連抗体薬も選択肢に加わっており、従来の薬で効果が不十分だった人にも新しい可能性が広がっています。
漢方薬という選択肢
日本の医療現場では、西洋医学の治療と並行して漢方薬もよく使われます。「頭痛の診療ガイドライン」では、呉茱萸湯、桂枝人参湯、釣藤散、葛根湯、五苓散の5処方が紹介されています。冷えやむくみ、月経関連の頭痛を抱える女性には、こうした漢方薬が合うこともあります。漢方薬は自分の体質に合うかどうかが重要なので、必ず医師や薬剤師に相談してください。
日常生活でできる頭痛対策──「ながら」習慣を見直す
治療と並行して、日常の習慣を見直すと頭痛の頻度は確実に減ります。ここでは、今日から始められる対策を紹介します。
1. スマホとパソコンの使い方を見直す
首や肩の筋肉が緊張すると、緊張型頭痛を引き起こします。画面を見るときは、目線をやや下げて、30分に一度は遠くを見る習慣をつけましょう。デスクワーク中は、肩を回す、首をゆっくり倒すなど、2時間に一度は体を動かす時間を作ってください。
2. 睡眠と食事のリズムを整える
片頭痛の引き金には、睡眠不足だけでなく寝すぎも関係します。休日も平日と同じ時間に起きるのが理想です。また、空腹も頭痛を誘発するため、食事は規則正しく。赤ワイン、チョコレート、チーズなどは人によって片頭痛の引き金になることが知られています。自分の頭痛日記をつけて、引き金を見つけるのも有効です。
3. 市販薬の使いすぎに注意
市販の鎮痛薬を月に10日以上、または週に3日以上使っている場合、「薬物乱用頭痛」の可能性があります。これは、鎮痛薬が切れると頭痛がぶり返す悪循環のことです。心当たりがある方は、自己判断で薬を増やすのではなく、医療機関に相談してください。
受診の流れ──どこに行けばいいのか
頭痛で医療機関を受診するときは、次の流れが一般的です。
- かかりつけ医や内科で相談:まずは近くの内科や脳神経内科を受診します。このとき、頭痛の頻度、痛みの場所、どんなときに起きるかをメモして持っていくと、診断がスムーズです。
- 頭痛外来や専門クリニックを探す:かかりつけ医で改善しない場合は、「頭痛外来」を掲げる脳神経内科やペインクリニックを探しましょう。日本頭痛学会のホームページには、専門医のいる施設が紹介されています。
- 治療方針を決める:診断に基づいて、急性期治療薬、予防治療薬、漢方薬などの中から、自分に合った治療を選びます。最近は、オンライン診療に対応する頭痛外来も増えているので、通院が難しい方は活用してみてください。
実際に改善した人の例
30代の会社員・佐藤さん(仮名)は、月に6回以上の片頭痛に悩まされ、市販薬に頼っていました。頭痛外来で診断を受けたところ、予防治療の必要性を指摘され、内服薬と生活習慣の改善を組み合わせた結果、半年後には発作の頻度が月に1〜2回に減りました。「頭痛のせいで仕事の予定をキャンセルすることが減った」と話します。
頭痛とうまく付き合うために
頭痛の治療は「痛みを我慢すること」ではありません。正しい診断を受け、自分に合った治療と生活習慣を見つければ、頭痛の頻度や強さは確実に改善します。
まずは、自分の頭痛がどのタイプなのかを観察してみてください。痛みの場所、性質、頻度を2週間ほど記録すると、受診時に役立ちます。「また頭痛かな」と思ったら、市販薬を飲む前に、一度医療機関に相談することをおすすめします。日本には、頭痛に詳しい専門医が全国にいます。あなたの頭痛も、きっと解決の道があります。