なぜ日本人の頭痛は放置されるのか
日本の成人のおよそ8人に1人が片頭痛を経験するとされ、肩こり由来の緊張型頭痛を合わせると、慢性頭痛に悩む人は4000万人にのぼります。それでも多くの人は医療機関を受診せず、市販の鎮痛薬でやり過ごしています。
その背景には「我慢が美徳」という文化があります。頭痛を病気ではなく体質と捉え、症状を周囲に打ち明けられないまま何年も過ごす人も少なくありません。特に日本では天気予報の気圧変化で起こる「気圧頭痛」への関心が高く、雨の前日に頭痛が起きると「低気圧のせいだから仕方ない」と諦めてしまう声をよく耳にします。
ここで注意したいのは、片頭痛と緊張型頭痛では対処法が正反対だということです。片頭痛に市販の鎮痛薬を多用すると、薬剤使用過多による頭痛を招くリスクがあります。日本頭痛学会の診療ガイドラインでは、発作が月に数回以上ある場合、片頭痛の予防薬による治療の検討が推奨されています。タイプ別の見分け方のポイントをまとめました。
| タイプ | 痛みの特徴 | 主な誘因 | 基本の対処 |
|---|
| 片頭痛 | ズキズキと脈打つ痛み。片側に出やすい | 気圧変化、寝不足、生理周期、チーズや赤ワイン | 静かな暗い部屋で休息。急性期薬と予防薬を使い分ける |
| 緊張型頭痛 | 頭全体を締め付けられる鈍い痛み | 肩こり、ストレス、長時間のデスクワーク | 首肩をほぐし温める。姿勢を見直す |
| 群発頭痛 | 目の奥をえぐられるような激痛が数週間続く | 飲酒、喫煙、寝不足 | 早めに頭痛外来を受診する |
群発頭痛は男性に多く、痛みの強さから「自殺頭痛」と呼ばれることもあります。市販薬では対処が難しく、必ず専門医の診察が必要です。一方、片頭痛と緊張型頭痛は日常生活の工夫でかなり改善できます。
今日から始められる頭痛対策
片頭痛でお悩みの方には、まず頭痛ダイアリーをつけることをおすすめします。発作の日時、痛みの強さ、天気、食事、睡眠時間を記録すると、自分だけの誘因が見えてきます。スマートフォンのアプリを使えば、記録の手間もかかりません。都内で働く30代のAさんは、ダイアリーで「気圧が下がる日の前日」に発作が集中していることに気づき、天気予報アプリを活用して早めの対策を取れるようになったそうです。
気圧頭痛の対策としては、耳まわりを温めたり、首を締めない服装を心がけるだけでも違います。低気圧が近づく日は、無理に予定を詰めず、睡眠時間をいつもより30分長く取るのも効果的です。北海道や東北のような寒冷地では、冷えによる血行不良が頭痛を悪化させることもあるため、就寝前に首や肩を温める習慣が役立ちます。逆に沖縄のような高温多湿の地域では、熱中症に伴う頭痛を防ぐため、こまめな水分補給が欠かせません。
緊張型頭痛には、デスクワーク中の姿勢改善が決め手です。モニターの高さを目線の位置に合わせ、1時間ごとに肩を回す習慣をつけましょう。大阪で営業職をしているBさんは、昼休みに5分間の首肩ストレッチを取り入れたところ、夕方の頭痛が減ったと言います。満員電車での通勤時に光や音がつらい人は、サングラスやノイズキャンセリングイヤホンを活用するのも一案です。
薬に頼りたい気持ちはわかりますが、月に10日以上鎮痛薬を使っている場合は注意が必要です。薬の使いすぎが頭痛そのものを悪化させる「薬剤使用過多による頭痛」の可能性があります。この場合は、いったん薬を休めて医師に相談するのが近道です。
専門医に相談する目安
以下のような症状がある場合は、自己判断せずに頭痛外来や脳神経内科を受診してください。
- 突然、今までに経験したことのない激しい頭痛
- 手足のしびれやろれつが回らない症状を伴う
- 発熱や首のこわばりを伴う
- 痛みが日ごとに強くなっていく
頭痛外来を探すときは、日本頭痛学会の専門医認定制度を利用するのが確実です。地域の病院でも、脳神経内科の外来で慢性頭痛の治療を受けられます。問診と頭痛ダイアリーを丁寧に確認し、必要に応じてMRIなどの画像検査が行われます。
治療の選択肢は年々広がっています。発作時の薬にはトリプタン系薬剤、予防薬にはCGRP関連薬が使われるようになり、従来の治療で効果が不十分だった人にも新しい選択肢が増えています。こうした治療は専門医の判断のもとで進められるため、「市販薬で何年も我慢してきた」という人こそ、一度相談してみてほしいところです。
薬物療法以外にも、神経ブロック注射や認知行動療法など、症状に合わせたアプローチがあります。頭痛のタイプと生活スタイルを専門医に伝えれば、自分に合った治療計画を立ててもらえます。
受診をためらう理由に「忙しくて時間がない」という声もありますが、頭痛外来の多くは予約制で、問診と診察は30分ほど。定期通院の間隔も月1回程度の人が多いようです。頭痛による欠勤や仕事の能率低下を考えれば、早めの受診は決して遠回りではありません。
慢性頭痛は、正しい知識と適切な治療で十分に改善できる症状です。まずは頭痛ダイアリーを一週間つけてみてください。そこに記録されたパターンが、あなたに合った対策の第一歩になります。気になる症状があるなら、この機会に専門医の門をたたいてみてはいかがでしょうか。