日本人の頭痛は「我慢」が当たり前になっていないか
日本で片頭痛を持つ人は成人人口の約8.4%、女性では約12.9%にのぼるという報告がある。20代から40代の働き盛りに多く、女性は男性の約3倍。にもかかわらず、医療機関を受診しない人が少なくないのが現状だ。
「頭痛は病気ではない」「忙しくて時間がない」という声はよく聞く。しかし頭痛には大きく分けて、片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛などがあり、それぞれ対処法が異なる。中には脳卒中やくも膜下出血など命に関わる二次性頭痛のサインであることもあるため、自己判断で市販薬を飲み続けるのは危険だ。
特に注意したいのが「薬の使いすぎによる頭痛」だ。頭痛の診療ガイドラインでは、鎮痛薬を週に2〜3日以上使うと薬剤の使用過多による頭痛へ移行する懸念があるとされている。飲むほど痛みが増えるという悪循環に陥る前に、専門医の診察を受けることが大切だ。
頭痛外来では何が行われるのか
診察の流れと検査
頭痛外来ではまず、頭痛の頻度や痛みの性質、随伴症状などを詳しく問診する。画像検査が必要と判断されれば、CTやMRIで脳に異常がないかを確認する。日本頭痛学会認定の頭痛専門医がいるクリニックでは、最新の知見に基づいた診断が受けられる。
診察の際に役立つのが「頭痛ダイアリー」だ。発作の日時、痛みの強さ、場所、天気、睡眠、食事などを記録しておくと、診断の精度が上がる。スマートフォンのアプリでも記録できるので、通院前に1ヶ月ほどつけてみるとよい。
治療の選択肢
治療は大きく「急性期治療」と「予防療法」に分かれる。急性期治療は発作が起きたときの対処、予防療法は発作そのものを減らすための治療だ。
急性期治療では、軽度から中等度の頭痛にはアセトアミノフェンやNSAIDsが用いられる。効果が不十分な場合はトリプタン系の薬剤が使われるが、血管収縮作用があるため心筋梗塞や脳梗塞の既往がある人には使用できない。
予防療法の対象となるのは、発作が月に2回以上ある、あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上ある場合だ。抗てんかん薬や抗うつ薬、β遮断薬などに加え、近年注目されているのがCGRP関連薬だ。
片頭痛治療の新たな選択肢
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は片頭痛の発作中に血中で増加する物質で、痛みのシグナル伝達に関与している。この働きをブロックするCGRP関連薬は、2021年以降、日本でも片頭痛の予防薬として保険適用された。
代表的なのが注射薬のエムガルティ、アジョビ、アイモビーグだ。いずれも月1回または数ヶ月に1回の注射で、在宅自己注射にも対応している。通院回数を減らしたい人には、オンライン診療と組み合わせて3ヶ月に1回の受診で継続できるケースもある。
そして2025年12月には、日本初となる片頭痛の急性期治療と発症抑制の両方に使える経口薬「ナルティークOD錠75mg」が発売された。一般名はリメゲパントで、CGRP受容体拮抗薬と呼ばれるタイプだ。注射薬と違い飲み薬なので、注射に抵抗がある人や「まずは飲み薬で試したい」という人に選択肢が広がった。血管収縮作用がないため、脳や心臓の血管の病気を持つ人でも使用しやすいという特徴がある。
治療薬の比較
| 薬剤名 | タイプ | 使用方法 | 適している人 | メリット | 注意点 |
|---|
| ナルティークOD錠 | CGRP受容体拮抗薬(内服) | 発作時または予防として1日1回 | 注射に抵抗がある人、血管疾患の既往がある人 | 急性期と予防の両方に使用可、血管収縮作用なし | 専門医の処方が必要 |
| エムガルティ | 抗CGRP抗体(注射) | 初回2本、以降月1本 | 発作回数が多い人 | 効果の立ち上がりが比較的早い、在宅自己注射可 | 注射が必要 |
| アジョビ | 抗CGRP受容体抗体(注射) | 月1本または3ヶ月に1回3本 | 通院回数を減らしたい人 | まとめ打ち可、在宅自己注射可 | 注射が必要 |
| アイモビーグ | 抗CGRP受容体抗体(注射) | 月1本 | CGRP受容体をブロックしたい人 | 在宅自己注射可 | 注射が必要 |
費用については、保険適用の有無や処方内容によって異なる。治療を検討する際は、かかりつけ医や頭痛外来で費用の目安を確認するとよい。
セルフケアでできること
医療機関での治療に加え、日頃のセルフケアも重要だ。
頭痛体操とストレッチ
緊張型頭痛には筋肉の緊張が関係している。首の筋肉をリズミカルに動かす頭痛体操は、仕事の合間に1分ほど行うだけで効果が期待できる。肩を大きく回す、首や胸をストレッチするなど、頭・首・肩の筋肉はつながっているので、全体をほぐすのがポイントだ。
ただし、片頭痛の発作中や激しい頭痛があるとき、発熱をともなう頭痛の場合は無理に運動しないこと。症状が悪化する懸念があるため、その場合は医療機関で診察を受けてほしい。
生活リズムの見直し
片頭痛の引き金には睡眠不足や寝すぎ、空腹、ストレス、天候の変化、特定の食べ物などがある。自分の誘因を知るためにも、頭痛ダイアリーの記録が役立つ。規則正しい生活と適度な運動は、頭痛予防の基本だ。
地域の医療資源を活用する
頭痛外来は、脳神経外科や脳神経内科を標榜するクリニックに設けられていることが多い。日本頭痛学会のホームページでは、認定専門医のいる医療機関を検索できる。オンライン診療に対応しているクリニックも増えており、忙しい人でも受診しやすくなっている。
職場のストレスが原因で頭痛が悪化している場合は、産業医や保健師に相談するのも一つの方法だ。過重な労働負荷による健康障害は労災認定の対象となるケースもあるため、症状が続くようなら記録を残しておくとよい。
頭痛は我慢するものではない。専門的な診断と治療によって、頭痛のない日常を取り戻すことは十分に可能だ。まずは近くの頭痛外来に相談してみてはいかがだろうか。