税理士事務所に何を期待するか、まず整理する
税理士と一口に言っても、その実態は事務所によってかなり異なる。ある調査では、税理士は大きく四つのタイプに分類できるとされている。申告書の作成だけを行う「申告税理士」、毎月の帳簿を確認する「帳簿税理士」、数字の意味を経営者にわかりやすく説明し相談にも応じる「相談税理士」、そして融資対応や事業承継などの経営課題にも踏み込む「コンサル税理士」だ。
自分がどの段階にいるのか、何を求めているのかを明確にしないまま契約すると、「思っていたのと違う」という結果になりかねない。たとえば、東京都内で飲食店を営むAさんは、開業時に知人の紹介で税理士と契約したものの、毎月の試算表が送られてくるだけで経営のアドバイスは一切なかったという。業績が伸び悩んだタイミングで、融資の相談にものってくれる今の事務所に変更し、資金繰りが改善したそうだ。
一方、大阪でEC事業を展開するBさんは、クラウド会計に強い若手税理士を選んだ。freeeやマネーフォワードとのデータ連携で記帳の手間が大幅に減り、本業のマーケティングに集中できるようになったと話す。自分が何に困っていて、どのようなサポートを必要としているのか。ここが出発点になる。
料金の考え方と相場感
税理士報酬は、かつては日本税理士会連合会の報酬規定があり、ある程度の目安が示されていた。現在は自由化されているため、事務所によって金額に開きがある。とはいえ、まったく相場感がないまま交渉するのも不安だろう。
以下に、事業規模別のおおよその月額顧問料の目安をまとめた。実際の金額は業種や記帳状況、面談頻度によって変動するため、あくまで参考として捉えてほしい。
| 事業規模(年商) | 月額顧問料の目安 | 決算報酬の目安 | 主なサービス内容 | こんな方におすすめ |
|---|
| 〜1,000万円 | 15,000円〜25,000円 | 50,000円〜100,000円 | 記帳確認、確定申告、年末調整 | 個人事業主、副業、創業間もない法人 |
| 〜3,000万円 | 21,000円〜30,000円 | 55,000円〜100,000円 | 月次決算、税務相談、年末調整 | 小規模法人、店舗経営者 |
| 〜5,000万円 | 24,000円〜33,000円 | 60,000円〜150,000円 | 月次訪問、経営助言、税務調査対応 | 成長段階の中小企業 |
| 〜1億円 | 36,000円〜43,000円 | 100,000円〜200,000円 | 経営計画策定支援、資金繰り相談 | 複数事業を展開する企業 |
記帳代行を依頼する場合は、これに加えて月額数万円程度の費用が上乗せされるのが一般的だ。また、相続税申告を依頼するケースでは、遺産総額に応じて数十万円から百万円を超えることもある。
「料金が安ければ良い」とは限らない。埼玉県の製造業を営むC社長は、当初は月額顧問料の安さだけで税理士を選んだが、税務調査が入った際にまったく頼りにならず、結局別の事務所に変更したという。調査対応の経験が豊富な税理士かどうかは、事前に確認しておきたいポイントのひとつだ。
地域による違いとオンライン対応
都市部と地方では、税理士事務所の数やサービスの傾向に違いがある。東京23区内、特に千代田区や港区、新宿区には多くの事務所が集中しており、競争が激しい分、専門特化したサービスを打ち出すケースが多い。ITスタートアップ支援に強い事務所、医療法人専門の事務所、海外進出支援を前面に出す事務所など、選択肢は豊富だ。
大阪や名古屋では、ものづくり企業や卸売業向けの経営支援を得意とする事務所が目立つ。福岡は比較的新しい事務所が多く、クラウド会計を活用したリーズナブルな料金体系を提示するところが増えている。
最近では、オンライン面談やチャットツールを活用した遠隔サポートを導入する事務所も珍しくない。地方に拠点を置きながら都心の専門性の高い税理士と契約する、という選択も現実的になってきた。LINEやZoomを使った気軽な相談が可能な事務所もあり、「忙しくて毎月の訪問対応が負担」という経営者には特に相性が良い。
電子帳簿保存法とインボイス制度への備え
2024年から電子帳簿保存法の電子データ保存が義務化され、2023年10月からはインボイス制度も始まっている。これらの制度対応にどこまで事務所が踏み込んでくれるかは、選定時の重要な判断材料になる。
クラウド会計ソフトを導入している事務所であれば、電子取引データの保存や適格請求書の発行・管理についてもスムーズに対応できるケースが多い。紙の帳簿や請求書に慣れた経理担当者にとっては負担が大きい制度変更だが、適切なツール選定と運用フローを税理士と一緒に整えることで、結果的に業務効率が上がったという声もある。
税理士との付き合い方を見直すタイミング
すでに税理士と契約している場合でも、「なんとなく頼みづらい」「質問への返答が遅い」「節税の提案がまったくない」と感じたら、関係を見直すサインかもしれない。税理士の変更は想像以上に簡単で、新しい事務所が引き継ぎを進めてくれるため、現在の税理士と直接やりとりする負担は少ない。
契約前には、必ず複数の事務所から見積もりを取ることをおすすめする。一括見積もりサービスを活用すれば、事業内容や予算に合った候補を比較しやすい。初回相談を無料で受け付けている事務所も多く、実際に話をしてみることで、相性やレスポンスの速さを肌で感じ取ることができる。数字と向き合うパートナーだからこそ、信頼できるかどうかという直感も、判断基準としてあながち軽視できない。