なぜ日本人に頭痛が多いのか
日本には頭痛に悩む人が約4,000万人いると言われています。その中でも特に多いのが、肩こりを伴う緊張型頭痛と、ズキズキとした拍動性の痛みを特徴とする片頭痛です。WHOと日本頭痛学会の疫学調査によれば、15歳以上の日本人の約10人に1人が片頭痛もちとされており、決して珍しい症状ではありません。
日本の環境には頭痛を引き起こしやすい要因がいくつかあります。まず梅雨や台風シーズンに代表される気圧の変動です。気圧が下がると血管が拡張しやすくなり、片頭痛の発作が誘発されることが知られています。また、長時間のデスクワークによる首や肩の筋肉の緊張も、緊張型頭痛の大きな原因です。電車通勤でのうつむき姿勢やスマートフォンの操作時間が長い現代人にとって、頭痛は身近な健康問題と言えるでしょう。
さらに、日本人は頭痛を我慢する傾向があることも問題です。鹿児島大学病院の情報によれば、一次性頭痛(片頭痛や緊張型頭痛)の患者の大半は医療機関を受診したことがない、あるいは受診しても「怖くない頭痛だから大丈夫」と言われてそのままになっているケースが多いといいます。頭痛による経済的損失は社会問題とも言われており、我慢は決して良い解決策ではありません。
頭痛のタイプを見極める
頭痛の対策を考える前に、自分がどのタイプの頭痛なのかを見極めることが大切です。大きく分けると以下のようになります。
緊張型頭痛の特徴
- 頭全体や後頭部が締め付けられるような鈍い痛み
- 肩こりや首のこりを伴う
- デスクワークの後や夕方に悪化しやすい
- 市販の鎮痛剤が比較的効きやすい
片頭痛の特徴
- こめかみなどがズキズキと脈打つような痛み
- 吐き気や光・音に敏感になる症状を伴う
- 月に1〜2回以上の頻度で起こる
- 市販薬が効きにくい、量が増えてしまう
近年では、片頭痛と思っていても実は緊張型頭痛だった、あるいはその逆だったというケースも多く報告されています。長引く頭痛の場合は、自己判断せずに一度専門医の診察を受けることをおすすめします。日本頭痛学会が認定する頭痛専門医は全国の各都道府県に在籍しており、北海道から沖縄まで各地域で受診が可能です。
日常生活でできるセルフケア
頭痛が起きてから対処するのではなく、頭痛が起きにくい体づくりを目指すことが重要です。ここでは、日本の生活スタイルに合わせた具体的な対策を紹介します。
1. 気圧変化への備え
気圧の変化を感じやすい人は、天気予報アプリで気圧情報をチェックする習慣をつけましょう。気圧が大きく下がる日の前日から、睡眠時間を確保し、カフェインの摂取を控えめにするなどの準備が効果的です。また、気圧の変化による頭痛を感じたら、早めに休息を取ることも大切です。
2. 姿勢と筋肉のケア
デスクワーク中の姿勢は、頭痛に直結します。パソコンの画面を目の高さに合わせ、1時間ごとに首や肩をほぐすストレッチを取り入れましょう。整体院などで指導されることの多い「首回し」や「肩甲骨はがし」といった簡単な運動でも、筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。
3. 薬との正しい付き合い方
頭痛が起きるたびに鎮痛剤を飲む習慣がある方は注意が必要です。鎮痛剤を頻繁に使用し続けると薬物乱用頭痛と呼ばれる状態になり、かえって頭痛が慢性化する悪循環に陥ることがあります。市販薬が効かない、効く量が増えてきたという場合は、専門医の診察を受けるべきサインです。
頭痛外来の活用法
頭痛は我慢するものではなく、適切な治療でコントロールできる時代になっています。日本では近年、頭痛外来を開設する医療機関が増えており、東京の赤坂や大阪など都市部を中心に、仕事帰りでも通いやすい診療体制が整ってきています。
頭痛外来では、国際的な診断基準に基づいて問診から診断を行います。必要に応じてCTやMRIなどの画像検査を実施し、脳腫瘍や脳卒中など緊急性のある二次性頭痛を除外した上で、治療方針を決定します。治療には、発作時の急性期治療と、発作を減らすための予防治療があります。
近年注目されているのが、抗CGRP製剤という予防薬です。これは月に1回の注射で投与する新しいタイプの薬で、従来の予防薬が効果を示さなかった患者にも有効とされています。また、2025年12月には、急性期治療と予防治療の両方に使える日本初の経口薬も登場しており、片頭痛治療の選択肢は着実に広がっています。
| 治療方法 | 概要 | 費用感の目安 | こんな人に向く | 利点 | 注意点 |
|---|
| 市販の鎮痛剤(NSAIDs) | 薬局で購入できる一般的な痛み止め | 比較的手頃 | 月に数回程度の軽い頭痛 | 手軽に購入できる | 頻用による薬物乱用頭痛のリスク |
| トリプタン製剤 | 片頭痛の急性期治療に用いる処方薬 | 保険診療のため3割負担で受診時に確認 | 市販薬が効かない片頭痛もち | 片頭痛の仕組みに直接作用 | 血管系の持病がある人は要注意 |
| 抗CGRP製剤 | 月1回の注射による予防治療 | 保険診療(高額療養費制度の対象となる場合あり) | 月に2回以上発作がある人 | 予防効果が高い | 継続的な通院が必要 |
| 頭痛外来での生活指導 | 睡眠・食事・ストレス管理の指導 | 初診時3割負担で3,000円前後が一般的 | 生活習慣が頭痛に影響している人 | 薬に頼らない改善が期待できる | 継続的な通院が必要 |
頭痛記録と受診のタイミング
頭痛対策の第一歩は、自分の頭痛を「見える化」することです。頭痛が起きた日時、痛みの場所、程度、持続時間、その日の天気や睡眠時間などを記録しておくと、受診の際に非常に役立ちます。スマートフォンのアプリや手帳を活用して、1〜2ヶ月程度記録を続けてみてください。
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
- 突然始まる激しい頭痛
- 手足の麻痺やしびれ、言葉のしゃべりにくさを伴う頭痛
- 発熱を伴う頭痛
- 50歳を過ぎてから初めて起こる頭痛
- これまでに経験したことのない強さの頭痛
これらは、くも膜下出血や脳卒中など緊急性の高い病気が隠れている可能性があるためです。頭痛外来の多くは初診時に詳しい問診と検査を行う体制を整えており、日本頭痛学会のウェブサイトでは認定頭痛専門医の一覧を公開しています。オンライン診療に対応している医療機関も増えているため、遠方でも専門医の診察を受けられる環境が整ってきています。
自分のペースでできることから始める
頭痛対策は、特別なことを始める必要はありません。まずは睡眠時間の確保、姿勢の見直し、気圧情報のチェックといった身近なことから始めてみてください。それでも頭痛が続く場合や、頭痛で予定を崩すことが増えてきた場合は、我慢せずに頭痛外来の受診を検討しましょう。片頭痛は「がまんしないといけない病気」ではなくなっています。適切な診断と治療によって、頭痛のない日常を取り戻すことは十分に可能です。